謎の河口クロダイ

0.03℃の水温変化を感じる
クロダイが生息できる水温範囲は広く、実験レベルでは3.5~32℃である。しかし、天然海域においてクロダイが好む水温は15~25℃である。そのため、クロダイは夏期に冷たい河川水が流れ込む河口へ移動し、越冬期は水温が少しでも高い深場に移動する。クロダイが移動する要因の一つが水温であり、生息しやすい水温を求めて移動するのも回遊なのだ。
クロダイ釣りで、"寒のクロダイを釣って一人前"という格言がある。冬季のクロダイの多くは深場で越冬しているため、釣れる場所も限られている。低水温で、クロダイの活性が下がってしまい、彼女たちと出会うには、少ないチャンスを逃がさないための集中力と忍耐力、それに食い渋ったクロダイに餌を食べさせるテクニックが要求される。
そんな折、いつもお世話になっている釣り情報誌から連絡があった。広島市の太田川河口でクロダイをルアーで釣るという企画だった。2月の河口にクロダイがいるとは思えない。たとえいたとしても、冷え込んだ夜間に活性の低いクロダイがルアーで釣れるとも思えない。しかし、友人の誘いなので、重い腰を上げて待ち合わせ場所に向かってみた。現地は河口というより、むしろ広島市の中心部に近い場所もさることながら、気温は3℃、表層水温は8℃という最悪なコンディションでもあった。しかし、そこで目にしたのは活気にあふれる釣り人たちと、まぎれもない7尾のクロダイだった。彼らが使用していたルアーは干潟に生息するアナジャコをイメージしたもので、動きも底を這うように工夫されていたのである。
彼らの全面的な協力により、河口クロダイの回遊パターンを調べるためタグ放流実験を開始した。河口クロダイと同時にキチヌが釣れるので、同時にタグ放流の対象とした。標識は2007年3月から始まり、その初夏までに434尾のクロダイと394尾のキチヌ、合計828尾の標識を行った。また、標識魚の情報を得るため、釣り具店や魚市場への協力を依頼し、情報を待った。最初の情報は実験を始めてすぐに広島市の魚市場に勤める友人からもたらされた。それは、1週間前に太田川でタグ放流された河口クロダイであり、ほぼ同じ場所で漁師さんによって漁獲されたものであった。その後、4月には大田川で2週間前に標識漂流されたキチヌがほぼ同じ場所で捕られ、魚市場で見つかったのである。このように、河口クロダイの標識実験は順風満帆のスタートを切ったのだ。しかし、それ以降、再捕されたのはキチヌの1例のみで、情報が全く途絶えてしまったのである。
再捕率が低い理由は2つある。まず、河口クロダイは河口に長く留まらないのかもしれない。河口は彼女たちにとって格好の餌場であるが、本来の生息域は湾内の磯場や防波堤であり、その間を頻繁に移動している可能性がある。また、タグ標識実験を行った期間は産卵時期を介している。産卵のため河口クロダイは、別の場所に移動している可能性もあるのだ。
ともあれ、冬期のクロダイの多くは深みに移動回遊して越冬している。ただ、冬期でも深みに移動せず沿岸に生息する"居付き"と呼ばれるクロダイが存在する。しかし、河川水の影響で水温が低下するような河口に居付きクロダイは生息できないというのが定説だった。ところが、釣り人によって相当数の居付きクロダイが河口に生息していることが明らかになったのだ。真冬の低水温でもクロダイの習性や生態を熟知していれば釣りが楽しめることを教えてくれた。クロダイの摂餌限界温度は6℃である。これ以上の水温であれば、クロダイが釣れる可能性はゼロではないことも確認できた。
(広島大学大学院准教授 海野徹也 著 クロダイの生物学とチヌの釣魚学より引用)
海野徹也研究グループ:うみの研
▼もっとクロダイの事が知りたい釣り師の方はこちら
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兎が跳ぶ海
故郷は故郷を離れて生きている人間の背中を彼自身に見えるようにしてくれる
I've had it.
サカナを愛する者が集まると話が止まらなくなる
竿に思いを馳せて
虎視眈々と
nostalgic
のべ竿の醍醐味
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